乳癌

乳癌について

日本人の死因の第1位はがんであることは皆さんすでにご存じと思われますが、実際にがんになる人も非常に多く、生涯の間に日本人女性の46%はがんに罹るといわれています。またがんに罹る部位は、女性では乳房>大腸>胃>肺>子宮、(死亡数は大腸>肺>胃>膵臓>乳房)で、乳癌は日本人女性に最も多い癌であり、(罹患率1位)生涯に乳癌を患う女性は12人に1人と言われています。未だ増加傾向にあり、30年前と比較し乳癌で亡くなる方は約3倍になっています。乳癌は高齢になるとともに増える多くの癌とは異なり、30代から増加しはじめ、40歳代後半から50歳代前半にピークを迎え、比較的若い世代で多くなっています。

①診断

乳癌の代表的な症状は乳房や腋のしこり、乳頭や皮膚の変形(ひきつれ、陥没)、乳頭からの異常分泌です。皮膚や乳頭の変化を肉眼で観察、しこりの性状や大きさ、腋窩リンパ節腫大の有無を手で触って調べます。画像検査にはマンモグラフィ(乳房単純レントゲン撮影)・超音波・CT・MRIなどがあります。しかしながら、初期の乳がんでは触ってもわからないことが多く、定期的な検診が勧められています。行政による乳癌検診では2年おきのマンモグラフィーとされていますが、乳腺の密度が濃い高濃度乳房ではしこりを見つけにくいとされています。そのため、特に40歳未満の若い女性など、乳腺の発達した人では超音波検査のほうが診断に役立つ可能性がありますので、マンモグラフィと一緒に受けることをお勧めします。

マンモグラフィ 乳房をはさんでレントゲン撮影し、X線の透過性の違いから病変を発見する。腫瘤や石灰化・乳腺の構築の乱れなどから異常をみます。
超音波 超音波を使って、乳房組織の音波の跳ね返りの違いから変化を発見します。しこりの性状を判断するのに適しています。
CT/MRI 造影剤を静脈内に注射しX線や核磁気を使って乳房の断層写真をとり、乳房内部の造影剤の染まり方の違いから病変を発見します。乳がんの拡がりをみるのに適しています。

上記で乳癌を疑った場合には、実際にしこりに針を刺して実際の細胞や組織を採取し、顕微鏡で形態を調べます(病理学的検査)。

②治療

乳癌においては、乳癌治療ガイドラインに従った治療(手術、化学療法)を提供しています。

手術

基本的な乳癌の手術は、乳房に対する手術と腋窩リンパ節に対する手術に分けられます。この二つの組み合わせにより手術法が決定されます。腫瘍の大きさと周囲への拡がり、乳房の大きさのバランスで切除範囲が決まります。また、乳房温存手術を行った場合、手術でとりきれたと考えられても、残った乳房に対して放射線治療が必要です。

腋窩のリンパ節に対する手術は、リンパ節に癌が転移しているか診断する目的と、リンパ節に転移した癌が進行し大きくなるのを防ぐ目的に行われます。腋窩リンパ節転移をおこす確率は、腫瘍が大きくなるほど増大することがわかっています。リンパ節転移の有無により、予後は大きく変わり、その転移の数が増えるにしたがい、将来転移・再発の危険が増大していきます。一方、術前診断で腋窩リンパ節転移がみられない早期の浸潤性乳癌の7割は、実際に手術してリンパ節を調べても転移が見られません。このような早期の乳癌に対して、腋窩リンパ節転移の診断のために腋窩郭清を行うのは後遺症のことを考えると過大な侵襲といえます。センチネルリンパ節は癌細胞がリンパ管に入り込み、最初に到達するリンパ節です。このセンチネルリンパ節に癌が見られない場合、そのほかのリンパ節に転移している可能性はほぼありません。そのため、術前診断で腋窩リンパ節に転移を認めない場合はセンチネルリンパ節腋窩郭清術がかのうとなります。

化学療法は乳癌の大きさとリンパ節転移の個数から、手術後の様々な抗癌剤・ホルモン剤・生物学的治療といった全身的治療が考慮されます。患者様の状態に応じ、エビデンスの高い最新、最良なものを提供しております。

薬物療法(化学療法・ホルモン療法)

乳がんに対する薬物療法は乳癌の進行度だけでなくタイプによっても異なってきます。術前に行う薬物療法は、手術前に薬物療法を行うことにより、乳がんを小さくすることを目的としています。がんが大きい場合など乳房温存手術が困難と判断された場合でも、術前化学療法でがんが小さくなれば、乳房温存手術が可能になる場合があります。

手術前の薬物療法には、アンスラサイクリン系薬剤やタキサン系薬剤などを中心とした抗がん剤が使用されますが、抗がん剤を用いず、ホルモン療法剤が使用される場合もあります。

術後に行う薬物療法は手術だけでは取り切れない可能性がある患者さんや、手術後に再発や転移の可能性の高い患者さんに行われます。がん細胞の一部が体の他の部分に広がっている場合があるので、これらの目に見えない小さながんの増殖を抑え、再発を予防するために、手術後に薬物療法が行われます。
薬物療法では抗HER2薬、抗がん剤、ホルモン剤が使用されます。

ステージ4の患者さんや手術後の再発、手術で取り切れなかった患者さんの治療の中心は化学療法です。化学療法を行うに当たっては全身状態や主要臓器機能が保たれていることが必要です。乳癌治療ガイドラインに従って1次治療、2次治療、3次治療、4次化学療法以降と治療の効果と副作用を考慮して抗がん剤を選択していきます。現時点での化学療法の効果は生存期間の延長や症状緩和が目標であり、がんを根治することはなかなか難しいのが現状です。

副作用は右の図のような種類と症状が挙げられます。患者さんにとって大事なのは我慢しないことです。つらい症状があった場合、すぐに私たちに連絡をしていただくことで、患者さんのつらい症状を少しでも早くとり、和らげることをとることを私たちは重視しています。患者さんと医療者との双方向のコミュニケーションが非常に重要ですので、何でもお話ししてください。抗がん剤投与の際は適切な副作用対策を行っていますが、つらい副作用が出た場合、お休み(休薬)をしたり、量を減らしたりすることで抗がん剤が継続して投与できるように工夫しています。

③当院の乳癌治療の変遷

当院では年間約30~50件の乳癌手術を行っております。患者様に負担の少ない温存手術、センチネルリンパ節腋窩郭清術を積極的に取り入れております。

④支持・緩和医療

乳がんの患者さんは、診断の時点から様々な問題に直面されることになります。患者さんの身体的苦痛はもちろん、精神的、社会的苦痛など多くの困難に対して、私たちは適切に評価し対応しています。そして、その苦痛を予防し、緩和することにより、患者さんとその家族の生活の質の改善に繋がることを目標にしています。

手術ができないくらいがんが進行した患者さん、手術後の再発した患者さんなど、治癒が望めなくなった段階では適切な緩和ケア、終末期ケアを行う必要があります。2020年6月私たちの病院に|いまここ|という緩和ケア病棟が誕生しました。|いまここ|は、主にがんなどの病気に伴う痛みや苦痛な症状、気持ちのつらさを和らげ、一日一日を大切に生活していただくことを目的とした病棟です。通院や在宅療養では症状を和らげることが難しく、入院が必要とされた患者さんが、少しでもその人らしく一日一日を大切に生活していただくことを目的としています。