胃がん

胃がんについて

日本人の死因の第1位はがんであることは皆さんすでにご存じと思われますが、実際にがんになる人も非常に多く、生涯の間に日本人男性の62%、女性の46%はがんに罹るといわれています。またがんに罹る部位は男性では胃>前立腺>肺>大腸>肝臓、(死亡数は肺>胃>大腸>肝臓>膵臓)、女性では乳房>大腸>胃>肺>子宮、(死亡数は大腸>肺>胃>膵臓>乳房)で、胃がんは日本人に最も多いがんのひとつです。胃がんの原因はヘリコバクターピロリ菌(以下HP)感染であることは言に及びませんが、最近ではHP感染率の低下とともに徐々に胃がんの患者さんは減少しています。

①診断

胃がんによる潰瘍や狭窄があると腹痛や出血を認めることがありますが、通常は自覚症状がありません。年に一度はがん検診(バリウム検診)などでチェックしてもらいましょう。最近ではABC検診が導入され、胃がんリスクの細分化が可能となり、上部内視鏡検査の検診への導入も行われるようになっています。内視鏡の診断技術が上がり、早期の段階で発見される機会が多くなってきました。当院では高度な技術を持った専門医が多数います。がんの深さを正確に診断するための超音波内視鏡、がんの広がりを微小血管をみて正確に診断するNBI拡大内視鏡といった最新の器械を使用することで、より正確な診断(存在診断、範囲診断、深達度診断)をしています。内視鏡検査に加えて、腹部エコー、胸腹部造影CT検査、血液検査(腫瘍マーカー)、バリウム検査などが行われ、胃がんの臨床進行度(ステージと言われています)が決定されます。

ここで・・・ABC検診とは
ABC検診とは、血液によるHP IgG抗体検査でピロリ菌感染の有無と、ペプシノゲン(以下PG)検査で胃粘膜萎縮度を調べ、その2つの結果を組み合わせて胃がんのリスクをA,B,C,Dの4群に分類して評価する検診です。

PGとは、胃の細胞から分泌される消化酵素(ペプシン)のもととなるもので、血中濃度を測定することにより胃粘膜でのPG生産度が分かります。血清PG量が少ないと胃粘膜が萎縮(老化)しているということになります。PGには2つのタイプがありますが、PG Iは主に胃底腺から分泌されるのに対し、PG IIは胃底腺のほか噴門腺や幽門腺、十二指腸腺からも分泌されます。胃粘膜の萎縮が進行すると、胃底腺領域は萎縮し幽門腺領域が拡張するため、PG Iに対してIIの量が相対的に増加してPG I/II比が低下します。したがって両者の比を見ることによって胃底腺領域の胃粘膜の萎縮の程度を予測することが出来ます。そしてこの比が基準値以下の場合、PG(+)とされます。

②治療

当院では胃がん治療ガイドラインに従った治療を提供しています。
早期胃がんのうち、分化型で、粘膜にとどまり、潰瘍がなく、大きさが2cm以内であれば、内視鏡でがんを切除するだけで治すことが可能です。手術が必要な場合でも身体に負担の少ない腹腔鏡手術を出来るだけ施行しております。
化学療法も患者さんの状態に応じ、エビデンスの高い最新、最良なものを提供しております。

③内視鏡治療

早期胃がんに対する内視鏡治療は、内視鏡的粘膜切除術(EMR)と内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の2種類があります。EMRの治療手技は比較的容易ですが、2cmより小さな病変でも1回の切除で取りきれない場合があり、治療後の再発の頻度が5-10%程度認めます。ESDは2cmを超えるより大きな病変でも、1回の切除で完全な切除ができますので、治療後の再発はほとんどありません。

早期胃がんに対する内視鏡治療は、リンパ節に転移がないがんが対象となります。EMRでは、“潰瘍のない2cm以下の分化型、粘膜内がん”が治療の絶対適応病変ですが、ESDでは適応が広がり、次の病変も適応病変となっています。“2cm以上で、潰瘍のない、分化型、粘膜内がん”、“3cm以下で、潰瘍のある、分化型、粘膜内がん”、“2cm以下で、潰瘍のない、未分化型、粘膜内がん”。内視鏡治療を行ったがんは、病理結果で、完全に切除できたかどうかを判定します。先ほども述べましたが大きな病変の場合など、EMRでは一括切除できない可能性があるため、早期胃癌に対する内視鏡での治療法としては、原則的にESDによる一括切除が重要です。

④手術

胃癌治療の基本は手術になります。手術には開腹手術と腹腔鏡手術があります。基本的には手術の内容;胃を摘出し、周囲のリンパ節を摘出(これを郭清といいます)し、食事が食べられるように再建、は同じです。現在ステージIの患者さんには腹腔鏡手術が推奨されますが、今後より進行したがんにも行われるようになると思われます。開腹手術では、術者、助手の手がお腹に入るため、約20~30cmの皮膚切開を行います。

一方腹腔鏡手術では、径が5mmと12mmのトロカー(細い筒のようなもの)を全部で4~5本腹腔内に挿入し、炭酸ガスを注入(これを気腹といいます)した後、細長い器具とカメラを出し入れして手術を行います。切除した胃を取り出すために、約5cm程度の傷を作らなくてはいけませんが、それは虫垂炎の手術の傷跡程度しか残りません。この小さな傷ですむということは、美容的な長所以外に以下のことが挙げられます。

腹腔鏡下手術の長所

  • (1)腹壁の機能障害の軽減
  • (2)術後疼痛の軽減
  • (3)拡大視効果による手技の安定化と腹腔内圧による止血効果による出血量の軽減
  • (4)癒着による腸閉塞の軽減
  • (5)術後呼吸機能低下の軽減

手術術式
手術方法はがんの位置や大きさ、深さに応じて切除範囲が決定され、以下の術式があります。切除後は胃十二指腸吻合、胃胃吻合、胃空腸吻合、食道残胃吻合、食道空腸吻合などで再建されます。

胃切除後の障害
胃を切除するとダンピング症候群、逆流性食道炎、残胃炎、小胃症状、下痢、膨満感、食事量減少、体重減少などの‘胃切除後症候群‘と言われる症状があらわれ術後の生活の質(Quality of Life)が損なわれることが知られています。当院では中田浩二医師、川村雅彦医師を中心に日本全国のがんセンター、大学病院と協力し小冊子「胃を切った方の快適な食事と生活のために」を作成し、読売新聞医療ルネッサンス内でも紹介されました。
http://www.jsgp.jp/index.php?page=citizen_index
管理栄養士による栄養相談も行っております。胃切後障害でお困りの際はご相談ください。

⑤化学療法

胃がんに対する化学療法は大きく2つに分けられます。手術と組み合わせて行われる術前後の補助化学療法と、ステージ4の患者さんに対する全身化学療法です。補助化学療法は手術だけでは取り切れない可能性がある臨床進行度がステージ3の患者さんや、手術後に再発や転移の可能性の高い進行度がステージ2以上の患者さんに行われます。一般にステージ2の患者さんにはTS1という経口抗がん剤が用いられ、ステージ3以上の場合は経口抗がん剤と点滴で投与される抗がん剤の併用療法が一般に用いられます。

ステージ4の患者さんや手術後の再発、手術で取り切れなかった患者さんの治療の中心は化学療法です。化学療法を行うに当たっては全身状態や主要臓器機能が保たれていることが必要です。胃癌治療ガイドラインに従って1次治療、2次治療、3次治療、4次化学療法以降と治療の効果と副作用を考慮して抗がん剤を選択していきます。現時点での化学療法の効果は生存期間の延長や症状緩和が目標であり、がんを根治することはなかなか難しいのが現状です。

副作用は右の図のような種類と症状が挙げられます。患者さんにとって大事なのは我慢しないことです。つらい症状があった場合、すぐに私たちに連絡をしていただくことで、患者さんのつらい症状を少しでも早くとり、和らげることをとることを私たちは重視しています。患者さんと医療者との双方向のコミュニケーションが非常に重要ですので、何でもお話ししてください。抗がん剤投与の際は適切な副作用対策を行っていますが、つらい副作用が出た場合、お休み(休薬)をしたり、量を減らしたりすることで抗がん剤が継続して投与できるように工夫しています。

⑥支持・緩和医療

胃がんの患者さんは、診断の時点から様々な問題に直面されることになります。患者さんの身体的苦痛はもちろん、精神的、社会的苦痛など多くの困難に対して、私たちは適切に評価し対応しています。そして、その苦痛を予防し、緩和することにより、患者さんとその家族の生活の質の改善に繋がることを目標にしています。

手術ができないくらいがんが進行した患者さん、手術後の再発した患者さんなど、治癒が望めなくなった段階では適切な緩和ケア、終末期ケアを行う必要があります。2020年6月私たちの病院に|いまここ|という緩和ケア病棟が誕生しました。|いまここ|は、主にがんなどの病気に伴う痛みや苦痛な症状、気持ちのつらさを和らげ、一日一日を大切に生活していただくことを目的とした病棟です。通院や在宅療養では症状を和らげることが難しく、入院が必要とされた患者さんが、少しでもその人らしく一日一日を大切に生活していただくことを目的としています。